1934年、広島・江波。浦野家の三人兄妹の長女として生まれ育ったすずは、のんびりした性格で、絵を描くことや空想が大好き。家族に囲まれ穏やかな日々を送っていたすずだが、18歳になったある日、呉に住む周作という青年に望まれ、嫁入りすることになる。周作は呉にある軍法会議で働き、父の円太郎も町の多くの人たちと同じように海軍で働いて生活していた。慣れない呉での生活、性格のためかなにかと辛くあたる義姉の径子の存在もあるものの、すずは持ち前の明るい性格で新しい生活になじんでいく。ところが、戦争の影は徐々に色濃くなり、やがて1945年の夏が迫ってくる。
先日、一緒に旅行した広島在住の友人にすすめられ、レンタルしてきた。
アニメ映画の感想を書くのは初めて。
牧歌的で淡いトーンの描写に、冒頭から全身の力が抜けるような気持ちになった。幼少期からのすずとまわりの生活が、淡々としているようで丁寧に時間を追って描かれる。周作との最初の出会いという、夢とも現実ともつかないエピソードも、同じような調子で溶けこむように示されていた(最初にみたときは周作との出会いに気がつかず、このシーンはもう一度戻って見直したのだが)。
戦時下の広島を描くもの、ということで、むかし家にあった『はだしのゲン』のことをひさしぶりに思い出した。原爆被害の描写ははるかに多くそしてむごい『はだしのゲン』。それに比べ、前述のように牧歌的で淡いトーンが全体を包みこんではいるものの、本作はそのなかで不意であったり部分的であったりして、衝撃的な場面が登場する。
現代から振り返ると、たしかに「戦争」はあった。そう私たちは理解している。けれども、当時の人々にとってそれは、「戦争」と名前を呼んではいても、よくわからない「何か」だ―日常を少しずつ少しずつ変えていき、気づけばなにが「日常」であったのか、始まりのわからない、それでいて突然終わりがやってきてつき放される、そういったものだったのかもしれない。