2017/12/05

クリムゾン・ピーク


 Crimson Peak. 2015

20世紀初頭のアメリカ・バッファローで父親と暮らす女性イーディス. 彼女には幼い頃, 死んだはずの母親の幽霊に遭遇し, 「クリムゾン・ピークに気をつけろ」と警告されるという経験があった. ある日, 実業家である父親に投資を持ちかけるためイギリスからやってきたトーマス・シャープという男と惹かれあうようになったイーディスは, 父親の謎の死をきっかけに彼と結婚し, イギリスへ渡る. トーマスと彼の姉, ルシールと大きな屋敷で暮らし始めたイーディスだが, そこでさまざまな怪奇現象を経験することになる. 一方, イーディスの父親の死の原因について独自に調査をしていたイーディスの幼馴染である医師アランは, トーマスとルシール姉弟の素性を突き止め, イーディスを救うためイギリスへ渡るが...

監督は「パンズ・ラビリンス」「パシフィック・リム」などのギレルモ・デル・トロ. 彼の作品にはなんとなく苦手意識があったが,出演の顔ぶれに惹かれて鑑賞した. 特にミア・ワシコウスカとトム・ヒドルストンはともに大好きな俳優. 一方アラン役のチャーリー・ハナムが出演していることは, 彼の登場まで全く知らなかったので, 嬉しい驚きだった.

ホラー映画かと思いきや, ゴシック・ロマンという感じ?幽霊は, ビジュアルと効果音はたしかに怖かったが, じきに慣れてむしろジェシカ・チャスティン演じるルシールという人間の怖さが際立っていた.
あと注目すべきは3人が暮らす屋敷のディテール. たしかに素敵だけれども実際に住みたいとは思わない, 観賞用という感じ. 屋敷は実際にスタジオに作ったというのも驚き.

最後のイーディスとルシールの対決は少し滑稽だった. 一番強そうなアランが一番先に刺されてほぼ退場してしまっていたし(笑). 全体的に凝ったビジュアル, それにしては案外あっさりとした展開で, 物足りなさも感じたが, 久しぶりに映画を一本満足に観られたのでよかった.

2017/12/04

婚約者の友人

Frantz. 2016

1919年のドイツ. フランスとの戦いで婚約者フランツを亡くし悲しみに暮れるアンナはある日, 彼の墓の前で涙を流して立っている男性を見かける. ほどなくしてアンナとフランツの両親が暮らす家に訪ねてきた男性はアドリアンと名乗り, 戦前にパリでフランツと知り合い親しくしていたという. アドリアンが敵国フランスの出身ということで最初は彼を拒んでいたフランツの父, ハンスも, やがて彼の語るフランツとの思い出話に心を開くようになる. アンナ自身も, いつしかアドリアンに惹かれていくのだった. ところがアドリアンにはずっと隠していたことがあり.....

※ネタバレ少しあります.

モノクロ映画かと思いきや, 時々カラーになる凝った演出に, まず驚かされる.

アドリアンを演じるピエール・ニネの出演作は初めて. 彼のこの世のものとは思えない美しさにくぎづけになった. 迷い苦しみ, けれどもそれも自分のエゴのため. そんな青年を丁寧に演じており, そしてたまらなくお似合いだ. 手を触れた途端に崩れてしまいそうな儚さもある.

それに比べ, パウラ・ベーア演じるアンナは, ぴんと伸びた背筋にきりっとした顔立ち. 芯の強さが感じられる. 冒頭から, ドイツの街の石畳を踏みつつ堂々と歩いていく彼女の姿が印象的だった. そんな彼女が, 物語の終盤でピアノの演奏をやめて「もう, 無理」とその場を立ち去る場面には, 思わず体が重くなった.

そんなアンナが最後に選んだのは, 結局のところ「嘘」をつき続けること. すべてを明らかにしたアドリアン. それに対しアンナは, アドリアンすら思いもしないところで嘘をつき続けることとなる. 最後の絵の前の場面, あれは一つの嘘だったのではないかと感じた. 本当のことを言葉にしたところで, 喜ぶ者はいない. アンナにとっても, 彼を思い続けてもしかたがないのである.  絵を見ると, また切ない思いに苦しむことがあるかもしれない. しかし, これからもすべてを抱えて生きていくしかない. だから, 嘘ですべてを包みこむことを選んだのだ. 最後のその瞬間, モノクロだった画面は一気にぱあっとカラーになる. 安堵に似た感覚をおぼえた.

オゾン監督作品はこれまで「エンジェル」「ムースの隠遁」「彼は秘密の女ともだち」 の三作しか観ていない. 「スイミング・プール」はどことなく嵌れず, だったが,「危険なプロット」はぜひ観ておきたいところだ. あとはパウラ・ベーアのほかの出演作も観ておきたいと思う. もちろんピエール・ニネの「イヴ・サンローラン」も.