Frantz. 2016
※ネタバレ少しあります.
モノクロ映画かと思いきや, 時々カラーになる凝った演出に, まず驚かされる.
アドリアンを演じるピエール・ニネの出演作は初めて. 彼のこの世のものとは思えない美しさにくぎづけになった. 迷い苦しみ, けれどもそれも自分のエゴのため. そんな青年を丁寧に演じており, そしてたまらなくお似合いだ. 手を触れた途端に崩れてしまいそうな儚さもある.
それに比べ, パウラ・ベーア演じるアンナは, ぴんと伸びた背筋にきりっとした顔立ち. 芯の強さが感じられる. 冒頭から, ドイツの街の石畳を踏みつつ堂々と歩いていく彼女の姿が印象的だった. そんな彼女が, 物語の終盤でピアノの演奏をやめて「もう, 無理」とその場を立ち去る場面には, 思わず体が重くなった.
そんなアンナが最後に選んだのは, 結局のところ「嘘」をつき続けること. すべてを明らかにしたアドリアン. それに対しアンナは, アドリアンすら思いもしないところで嘘をつき続けることとなる. 最後の絵の前の場面, あれは一つの嘘だったのではないかと感じた. 本当のことを言葉にしたところで, 喜ぶ者はいない. アンナにとっても, 彼を思い続けてもしかたがないのである. 絵を見ると, また切ない思いに苦しむことがあるかもしれない. しかし, これからもすべてを抱えて生きていくしかない. だから, 嘘ですべてを包みこむことを選んだのだ. 最後のその瞬間, モノクロだった画面は一気にぱあっとカラーになる. 安堵に似た感覚をおぼえた.
オゾン監督作品はこれまで「エンジェル」「ムースの隠遁」「彼は秘密の女ともだち」 の三作しか観ていない. 「スイミング・プール」はどことなく嵌れず, だったが,「危険なプロット」はぜひ観ておきたいところだ. あとはパウラ・ベーアのほかの出演作も観ておきたいと思う. もちろんピエール・ニネの「イヴ・サンローラン」も.
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