2018/07/23

伴奏者


(L'accompagnatrice / フランス / 1993)

1942年、ドイツ占領下のパリ。貧しい母子家庭で育ったソフィー(ロマーヌ・ボーランジェ)は、世界的オペラ歌手イレーヌ(エレナ・ソフォーソワ)の伴奏者となる。やがてイレーヌとその夫シャルル(リシャール・ボーランジェ)と同居、そしてともにロンドンまで同行するソフィーは、イレーヌの伴奏だけでなく身の回りの世話もする。コンサートで成功を収めても賞賛を浴びるのはイレーヌばかり、実はイレーヌの愛人ジャックにひそかに恋心を抱いてもいたソフィーは、イレーヌを愛しながらも、同時に彼女に嫉妬を覚えるようになる。イレーヌはロンドンでジャックと密会を重ねるが、やがて悲劇が起こる。


これもレンタル店で何げなく手にとった。以下、ネタバレあります。

戦時下で不穏な空気が漂う街並み、イレーヌの美しい歌声とソフィーの繊細なピアノの音色、大勢の人々を乗せた列車の煙や行きかう人々でいっぱいの駅、人物たちの絡み合う視線...静かで淡々とした描写ながらも、いろいろな感覚に訴えてくるような映画で、最後まで目が離せなかった。

まずはなんだかあどけない、見ていてなぜだか不安に似た気持ちを抱かせるような、ソフィーの表情が良い。無害で素朴なようでいて、実は心のなかは人知れず野望や嫉妬、いきすぎた好奇心でいっぱいである。それを見破りつつ(?)も、ソフィーを受け入れ、彼女を虜にするだけの魅力があると思わせるイレーヌの美しさは、全体的に暗い本作の雰囲気のなかで眩しいほど。

イレーヌとジャックの決定的な瞬間を目のあたりにしたときの、シャルル、というか演じるリシャール・ボーランジェの背中の演技がお見事。表情は一度も映し出されないのに、背中であそこまで語れるのか...!台詞もないが、本作で一番印象に残る場面だった。

ちなみにロマーヌ・ボーランジェとリシャール・ボーランジェ、親子である。それを知ってからは、親子ではない役柄なのに親子に見えてしかたがなかった(顔、思ったよりもだいぶそっくりである)。
また、本作では愛人同士だったイレーヌとジャック、演じた俳優はプライベートでも交際していたとか。
スペインからロンドンへの途上で出会いソフィーに恋する青年ブノワを演じた俳優、どこかで見たことある?と思ったら、マリオン・コティヤールと交際の噂のあった人であった...すでに亡くなっているようだが、話し方が印象的で、どことなくキリアン・マーフィーに似ていて素敵だった。 

おやすみなさいを言いたくて


(A Thousand Times Good Night / ノルウェー・アイルランド・スウェーデン/ 2013)

レンタル店へふらっと行き、おもしろそうと思った映画を持ち帰る、
という以前のような生活が戻ってきて、なんだかうれしい。

報道写真家のレベッカ(ジュリエット・ビノシュ)は、戦争の真実を伝えるために世界各地の紛争地域に果敢に飛びこむ、多忙な毎日を送っていた。アイルランドでは愛する夫マーカス(ニコライ・コスター=ワルドー)や二人の娘たちが待っている。ところがある日、取材中に爆発に巻きこまれ、危うく命を落としかける。そんなレベッカに、もう二度と紛争地域へは行かないでほしいと言う家族たち。レベッカはそれまで自分がどれほど家族に心配をかけ、彼らに支えられてきたのかを実感、仕事から身を引くことを考えるが...

使命感に燃えるレベッカと、彼女を心配し、彼女のそのような使命感に反感すら覚えはじめる家族、どちらの気持ちも静かに、細やかに描かれていた。どちらも最後までは譲れず、譲れるはずもなく、という展開が、言ってみればわざとらしくなくて良い。

死が身近な紛争地域と、家族の住むアイルランドの平穏な田舎町のコントラストも、見事。出てきた空港は、ダブリンの空港だろうか。何度か使ったことのある空港なので、どこか懐かしい思い。
 
最後は、どこか唐突に幕を閉じたような気がしたが、冒頭の彼女の行動との対比が生かされている。爆弾を抱えて出発するのが、自分の娘くらいの年頃の子供だと知ったとき、レベッカはもはや写真家ではなく、ひとりの母親となる。果敢にシャッターを切っていた彼女は、そこにはいない。 思わず膝を折り、その場に崩れる彼女の姿が、いつまでも印象に残る。

2018/07/20

あなたの腕で抱きしめて

 I dine hænder / In Your Arms / 2015


デンマーク、コペンハーゲン。孤独な看護師マリアは、不治の病をもつ青年ニールスの介護をしている。ニールスは、スイスでの安楽死を望んでいた。衝撃を受けるマリアだったが、彼の母親に頼まれて、ニールスとスイスへ同行することになる。


特に理由もなくゲオでレンタル。しばらくは観ていて「これはどこの国の言葉だろう」とそればかり考えてしまった。オランダ語?ドイツ語?と浮かんでは消えて、調べてやっとデンマーク語とわかる。デンマーク映画は2014年に観た『ロイヤル・アフェア』以来だ。

決して悪い意味ではなく「映画らしくない映画」だと思った。
台詞は少なめだが、ドキュメンタリー風のカメラワークながらも確実に時間が進んでいく。最初はぼんやりとしか見えない人物にも、徐々に、でも完全ではないながらも、形が見えてくる。この、完全ではないながら、というのが重要で、だからこそ自然で、心地よいほどに淡々としていて、いわゆるハリウッド映画を見慣れている人には、ちょっと物足りないかもしれない。

安楽死を描く物語、というよりも、安楽死を迎える人を見守り、その人の決意や死をなんとか受け入れようとする人たちの物語だと思った。
同じようなテーマで『世界一キライなあなたに』を思い出させるけれど、こちらのほうがずっと重い。

2018/07/15

セイフ・ヘイヴン


 Safe Haven / 2013


ボストンから、はるばるアメリカの南部の小さな港町サウスポートへとやってきた女性ケイティ(ジュリアン・ハフ)。そこで新たな生活を始めた彼女は、数年前に妻を亡くして以来、男手ひとつで2人の子供を育てるアレックス(ジョシュ・デュアメル)と出会い、惹かれ合っていく。近所に住む女性ジョー(コビー・スマルダーズ)とも仲良くなり、平穏な日々を過ごすケイティ。ところがある日、アレックスは彼女が全国で指名手配されていることを知り、動揺するが....

原作は『きみに読む物語』などのニコラス・スパークス、監督はラッセ・ハルストレム。めずらしく恋愛映画でも、と思ってレンタルしてきた。恋愛映画はあまり観ないので、ニコラス・スパークス原作の映画はこれが初めてとなった。

中盤までは、「ジョシュ・デュアメル好きだったらおもしろいかな~~」とぼんやりと観ていたが、真実が明らかになってからラストまでは目が離せない展開に。

そして、やっと平和を取り戻したかと思いきや、最後の最後にもっとびっくりな展開に。

と初見は驚かされてばかりで、また最初から観たくなる作品だったが、落ち着いて振り返るとやや詰めこみすぎでは?とも思わされた。映画だからこそ、それはそれで楽しめるからいいのだけれど。

※ここからネタバレ含みます。 




映画を観て「えっっ、」と声を上げてしまったのは久しぶりだった。
というのも、ケイティを執拗に追いかけていた刑事が彼女の夫だとわかった場面。

しかもその夫、ケヴィンは、最初はクールな敏腕刑事風だったが、徐々に異常な行動が目につくようになり、「ただ仕事熱心...なのか?」と思いきやよく飲んでいた瓶の中身はアルコール。
やっとケイティを見つけたころには哀れなほどダメ男と化していて、最後はビョーキ男に。俳優の演じ分けが見事だった。なぜか説得力があったもの。

番外編として、ケイティとケヴィンの出会いから関係の崩壊までを描いた作品がちょっと観たい気もした。逆を言えば、ケイティが最後までどういう女性なのかよくわからなかったから。 原作はどこまで描いているのだろうか。