(L'accompagnatrice / フランス / 1993)
1942年、ドイツ占領下のパリ。貧しい母子家庭で育ったソフィー(ロマーヌ・ボーランジェ)は、世界的オペラ歌手イレーヌ(エレナ・ソフォーソワ)の伴奏者となる。やがてイレーヌとその夫シャルル(リシャール・ボーランジェ)と同居、そしてともにロンドンまで同行するソフィーは、イレーヌの伴奏だけでなく身の回りの世話もする。コンサートで成功を収めても賞賛を浴びるのはイレーヌばかり、実はイレーヌの愛人ジャックにひそかに恋心を抱いてもいたソフィーは、イレーヌを愛しながらも、同時に彼女に嫉妬を覚えるようになる。イレーヌはロンドンでジャックと密会を重ねるが、やがて悲劇が起こる。
これもレンタル店で何げなく手にとった。以下、ネタバレあります。
戦時下で不穏な空気が漂う街並み、イレーヌの美しい歌声とソフィーの繊細なピアノの音色、大勢の人々を乗せた列車の煙や行きかう人々でいっぱいの駅、人物たちの絡み合う視線...静かで淡々とした描写ながらも、いろいろな感覚に訴えてくるような映画で、最後まで目が離せなかった。
まずはなんだかあどけない、見ていてなぜだか不安に似た気持ちを抱かせるような、ソフィーの表情が良い。無害で素朴なようでいて、実は心のなかは人知れず野望や嫉妬、いきすぎた好奇心でいっぱいである。それを見破りつつ(?)も、ソフィーを受け入れ、彼女を虜にするだけの魅力があると思わせるイレーヌの美しさは、全体的に暗い本作の雰囲気のなかで眩しいほど。
イレーヌとジャックの決定的な瞬間を目のあたりにしたときの、シャルル、というか演じるリシャール・ボーランジェの背中の演技がお見事。表情は一度も映し出されないのに、背中であそこまで語れるのか...!台詞もないが、本作で一番印象に残る場面だった。
ちなみにロマーヌ・ボーランジェとリシャール・ボーランジェ、親子である。それを知ってからは、親子ではない役柄なのに親子に見えてしかたがなかった(顔、思ったよりもだいぶそっくりである)。
また、本作では愛人同士だったイレーヌとジャック、演じた俳優はプライベートでも交際していたとか。
スペインからロンドンへの途上で出会いソフィーに恋する青年ブノワを演じた俳優、どこかで見たことある?と思ったら、マリオン・コティヤールと交際の噂のあった人であった...すでに亡くなっているようだが、話し方が印象的で、どことなくキリアン・マーフィーに似ていて素敵だった。